シンプル育児アドバイザーの石鍋てるみです。
子どもは、成長していく過程で、自分以外の人との関係で
トラブルをおこします。
おもちゃをとられた、叩いた、ひっかいた、噛まれたなど
そうやったトラブルの中で、社会の中での自分の行動を修正しながら
社会性を学んでいきます。
成長過程で必ず通る道であるのですが、
発達障害・グレーゾーンの子どもでは、
それが日常茶飯事となります。
行く先々で手が出てしまう、喧嘩になってしまう。
すぐ暴言を吐く、相手の子を泣かせてしまう。
こんなお悩みを抱えている支援者がとてもたくさんいます。
逆に、やたら、人懐っこく、ベタベタと付きまとうので嫌がられてしまう。
髪の毛や胸などやたら触るので、注意してもやめてくれないなどという
悩みもよくきかれます。
本人は「大好きだよ」「仲良くしたい」「一緒にあそぼうよ」という、
気持ちをこめて抱きついているつもりかもしれません。
でも、誰でもかまわず抱きついたり、
相手が「やめて!」と言っているのに繰り返しやるので
「しつこい」「わざとやってる」と誤解されたりします。
かなりの接近した状態でもお互いが気にならない同士となら、
トラブルになりませんが、
違和感を感じる場合は、噛みつきなどの他害行為や、
嫌われてしまうこともおこります。
そのため、コミュニケーションの機会を逃したり、
友だちに誤解されたり、対人トラブルにつながったりしてしまうのです。
時には、それが、いじめ問題や、自己肯定感を下げることにつながり、
起きると改善が困難な二次障害への入り口になる可能性があります。
もしも、このような子どもである場合は、
良好な人間関係を築くためにも、人との適切な距離の取り方について
教えてあげておく必要があります。
では、どうしたら良いのでしょうか?
まず、本人は相手を困らせてやろうとかいう気持ちは
一切ないことを理解しましょう。
発達障害・グレーゾーンの子どもは、
脳の発達にアンバランスさがあるために、
・相手の表情や気持ちが読み取りにくい
・自分の気持ちを言葉で伝えるのが難しい
・ダメと分かっていても衝動性が高くやめられない
・忘れっぽいなどの特性があります。
そのため、同じことを何度でも繰り返してしまいます。
もう一つ、原因があります。
パーソナルスペースという言葉をご存じでしょうか?
私たちは自分以外の誰かと接する際に、
いろいろな「距離」を取っています。
そのときに自分のまわりにできるこの距離の範囲を
「パーソナルスペース」と呼びます。
発達障害のあるなしに関わらず、
人には誰にでもそれぞれ心地よい距離感があります。
この距離感をつかむのに手がかりとなるのが
「視線」「声の大きさ」「接触」「表情」などの
非言語のコミュニケーション。
この、非言語コミュニケーションが苦手なので、
発達障害・グレーゾーンの人は
パーソナルスペースを理解することが難しいのです。
あなた自身で考えてみましょう。
自分のまわりに、何重もの「輪」があるとします。
1つ目の輪の中に自分だけ入っているとします。
次に自分に近い輪の中には、旦那さんや子ども、自分の両親、
その次の輪には親戚の人、近所の人など、
この輪の中に誰を入れるのか、
その輪の幅は広いのか、せまいのか?
それは自分と相手との関係性、信頼感などによって、
相手との距離を広く取るのか、せまく取るのかは
自分の意志で無意識に決めています。
初対面なのに妙に近づいてくる人に違和感を感じたり、
電車の席を選ぶときにも、席が空いていれば、
座っている人とはちょうど良く離れた席を選んでいるはずです。
アメリカの文化人類学者、エドワード・T・ホールは、
人のパーソナルスペースを相手との関係をふまえて
4つのゾーンに分類しています。
あなたも自分のパーソナルスペースの取り方が
TPOに合っているか、診断してみてください。
Level.1 公衆距離:3.5m以上
講演会や公式な場で、話す側と聞く側との間に必要とされる広さです。
自分と相手との関係が『個人的な関係』ではない
『公的な関係』である時に用いられます。
また、一般の人が社会的な要職・地位にある人と正式な会合
・イベントで面会するような場合に取られるかしこまった距離です。
Level.2 社会距離:1.2m~3.5m
あらたまった場や業務上で上司と接するときにとられる広さです。
声は届きますが、相手に失礼が無いように、
手を伸ばしても相手に触れることができない、安心できる距離です。
Level.3 固体距離:45cm~1.2m
二人が共に手を伸ばせば相手に届く広さです。
友人や会社の同僚など親しい人であれば
ここまで入っても不快になりません。
お互いの表情が読み取れる距離感でありながら、
両方が歩み寄ることで初めて手を触れ合える
距離であることがポイントです。
Level.4 密接距離:0cm~45cm
手を伸ばさなくともボディータッチができる広さです。
顔がとても近い位置にあり、キスやハグが容易にできます。
家族や恋人など、親しい人がこの距離にいることは許されますが、
それ以外の人がこの距離に近づくとハッキリと不快に感じます。
どうでしょうか?大体あっていましたか?
一般的に子供はパーソナルスペースが狭いです。
仲良くなると公共の場でもすぐにくっつく様子を目にします。
18歳以下では年齢が低くなればなるほど狭くなります。
これは、人との距離感がどれくらいであるべきかという感覚を
まだ理解していないこと、心が動くままに興味がある方へ
近づいていくからです。
発達障害・グレーゾーンの子どもに限られたことではなく、
このパーソナルスペースの理解に課題がある子どもには、
幼児期に入ったら教えていく必要があります。
特に、この時期はかわいいので、大人の方も、
ちょっとしつこいな、距離が近いなと感じても、
容認してしまうことが起こります。
よく、保育士さんが、年中の子どもに
急に抱きつかれたり、胸や髪の毛を触られても、
可愛いので、相手をしてしまう場面があります。
そんなときこそ、しっかりと社会的なルールをふまえて、
毅然と本来のコミュニケーションの取り方を
教えなくてはいけません。
他人の身体に不用意に触ることは、
決してしてはいけないからです。
小学の高学年になっても、自分が行為を持つ子の
髪の毛を触ってしまったり、肩を抱いたりしてしまう、
ASDの子どもがいました。
年齢からもう許されることではないことを
しっかりと教えていかないと、
本人に悪意がなくても、犯罪になってしまうのです。
ここまで容認されて育ってしまうと、
治すのも時間を要したり、
保護者が知らないところで続けていることも起こりうります。
子ども自身を守るために、このパーソナルスペースは
しっかり理解させておく必要があると思います。
では、どうやって、子どもに教えていくのか、
対応方法をお伝えします。
先ほども言ったように、全く子ども自身は悪意があって、
人を困らせようと思ってやっているわけではないと
支援者は理解することが大事です。
その子どもにとっては密着する、触る、抱きつくという行為が
相手とコミュニケーションをとる一つの手段になっているということです。
そこをわかったうえで、好ましい行動を伝えていきます。
①子どもの気持ちをことばに出して伝える
くっついてきた時は「だいすきなんだね」「遊びたいんだね」と、
子どもの思いを言葉にして、代弁します。
(その気持ちわかっているよ)と、理解を示す言葉です。
「もうお姉ちゃんなんだからダメ!」「急に抱きついたらダメでしょ!」と
指摘すればするほど、本人は「否定された!」と思い、
ますます悪循環になってしまいます。
突き放すのではなく、一度は思いを受け入れてあげます。
その上で、「急に抱きついたらびっくりするよね」
「あまり、何度も触られていると、ちょっと嫌な感じになるな」など、
社会のルールを折に触れくりかえし教え、上手にできた時には
「そうやると、いいね」と認めてあげましょう。
その上で、代わりとなる、好ましいコミュニケーション方法を伝えます。
例えば、ハイタッチする・握手するなどです。
また、もっとスキンシップを好む子どもには、
風呂上りにクリームを塗ってあげる
動画を見る時は、隣に座って一緒にみるなど
他のスキンシップの方法で
子どもが満足できる経験をさせていくことも大事です。
このように、お互いが「嬉しい」「楽しい」という気持ちになれる
方法があることを伝えてあげましょう。
②パーソナルスペースに関して具体的に伝える
子どもに他人との距離の取り方を教えてあげる時には
「離れて」「近づかない」「広い」「せまい」ではうまく伝わりません。
このような、あいまいな表現は苦手で分かりにくいです。
具体的な距離感を言葉にして伝えることがポイントになります。
先にお伝えしたように、Level.4 密接距離:0cm~45cm
約50センチ、相手との距離があれば、相手に不快感は与えにくいです。
例えば、
手を伸ばしたときに相手にぶつからないくらいとか、
実際の50センチの距離を、感覚で覚えらえるように、
あてっこゲームをするのも楽しんでできると思います。
お友だちとお話するときちょうどいいのはどのくらい?
近所のおじさんと話すときはどのくらい?
ちょうどいいと感じる距離が、適当だった場合は、
それで、OKだよって認めて励ましてあげてくださいね。
何度か経験を重ねていくことで、感覚が、わかってきます。
大きくなるにつれて不適切となると思われる行動は、
一定の年齢を超えたら少しずつ対応を考え、
少なくとも家族以外に対してはやらないようにしていく
必要があると思います。
子どもの先を思い描いて、今から社会で必要となるスキルを
少し練習していきましょう。